赤坂憲雄『異人論序説』の精読を通じて,批判的な読書の方法を学び,併せて思想史一般,日本中世史,民俗学・文学史の知識を補う。さらに進んで国家間や国家内に見られる民族問題など,文化的相違に起因する諸問題の根源,社会内部の組織化と疎外のメカニズムを理解し,問題の解消への努力について理解する。また,一般市民=公衆との関係において専門技術者としての自覚を形成する。
概要:
本学学生諸君は専門領域に責任ある技術者として社会に出る。他の市民=公衆にとっては,ある種の「異人」の位置に立つことになるが,そこにはある種の人間疎外の状況が看取される。この間の事情と意味を赤坂憲雄『異人論序説』を手掛かりに学ぶ。また,同書が言及する文化人類学・民俗学・社会学・宗教学的知識によって,人文学的教養を養うこともめざす。本キャンパスでは日本史が開講されていない。そこで本講義では,講義内容に関係する限りで日本史も講じる。なお,世界史(二年),倫理(二年)の学習内容を前提とし,人文科学特論(四年)の内容にも一部関説する。
授業の進め方・方法:
赤坂憲雄『異人論序説』を手がかりにしつつ思想史一般,日本中世史,民俗学・文学史の知識を補う。さらに進んで国家間や国家内に見られる民族問題など,文化的相違に起因する諸問題の根源,社会内部の組織化と疎外のメカニズムを理解し,問題の解消への努力について理解する。また,一般市民=公衆との関係において専門技術者としての自覚を形成する。
注意点:
本講義は日本史,日本文芸史や世界史,宗教史,哲学史の一般的な知識を前提とする。是非とも知っておかなければならない事項については特に強調するが,諸君もこれまで使った世界史・倫理,国語の教科書をおさらいし,一般教養の養成につとめること。また,毎朝の新聞記事・ニュースを視聴し(30分程度でよい),本講義の論題(乃至自身の興味関心)に引き寄せて考察を試みるなどするとよい。本講義は社会的不公正と問題の根源を論じる。その背景に存する現代社会の政治的・経済的諸課題,および公正な社会の実現に向けた現在までの取り組みについて,学生は個人的にもよく考察し,理解を深めること。
なお、思想的に争いが出るような論題を取り扱うものの、可能な限り中立性を保つよう務めるので安心して欲しい。定期試験では、議論の基礎となる諸事項を確認する問題を作成する。レポートにおいても、思想的立場による採点の偏向は極力排除する。但し受講者は物理的法則に反するような主張をしないこと。
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週 |
授業内容 |
週ごとの到達目標 |
前期 |
1stQ |
1週 |
ガイダンス(評価方法;講義の進め方),講義概要の提示 |
“関係”としての〈異人〉概念を理解し、現実に立ち戻って考えることができる
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2週 |
無主無縁とアジールの歴史 |
「無主無縁」などの網野善彦の概念を理解し、コムニタス論と比較して特質を理解する
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3週 |
日本の古代王権と「聖なるもの」 |
三輪山の神と天皇の話、夜刀神の神話から有縁有主の世界の展開の次第を理解する
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4週 |
「森の放浪者」I:源義経と源頼朝 |
源義経と源頼朝を例に、アジールとしての山林世界が消滅していく次第を理解する
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5週 |
「森の放浪者」II:中世都市鎌倉 |
遊行聖の活動と鎌倉版「夜刀神」神話から山林世界の文明世界への馴化の様子を理解する
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6週 |
足利義教と織田信長 |
比叡山への攻撃・攻略の様相を理解し、アジール消滅の次第とその背景の政治経済的条件を理解する
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7週 |
〈異人〉概念の豊饒さI |
中世の「市(いち)」の様相を知り、その機能を理解する
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8週 |
〈異人〉概念の豊饒さII |
客人神の宗教的・世俗的価値を確認する
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2ndQ |
9週 |
世俗化したのちの排除の世界I |
山林に代表される亡命の地を失った現代世界の問題の所在を理解する
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10週 |
世俗化したのちの排除の世界II |
前項の知識を前提に、宗教性を剥ぎ取られて生の暴力が現出する状況を理解する(具体的にはイジメ問題の構造)。
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11週 |
世俗化したのちの排除の世界III |
承前、合理的に差別を「楽しむ」手法として、敵を狂人と見做し、人格性を剥ぎ取ってしまう現代社会の様相を理解する
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12週 |
『王と天皇』I |
諸国で「聖なるもの」が現実的なものであった事例を学ぶ
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13週 |
『王と天皇』II |
我が国の御霊信仰の系譜を学び、明治政府期で如何なる変容をみたのかを瞥見する
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14週 |
『王と天皇』III |
戦後の国民生活における天皇の位置づけについて考察する
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15週 |
定期試験 |
上述の内容のうち、特に思想的に争いのない基礎的事項について確認する。
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16週 |
「国民統合」の問題 |
試験の解説をしたのち、ミャンマーの国民統合とその功罪について知る。
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分類 | 分野 | 学習内容 | 学習内容の到達目標 | 到達レベル | 授業週 |
基礎的能力 | 人文・社会科学 | 社会 | 地歴 | 社会や自然環境に調和した産業発展に向けた現在までの取り組みについて理解できる。 | 2 | |
日本を含む世界の様々な生活文化、民族・宗教などの文化的諸事象について、歴史的または地理的観点から理解できる。 | 2 | |
国家間や国家内で見られる、いわゆる民族問題など、文化的相違に起因する諸問題について、地理的または歴史的観点から理解できる。 | 3 | |
文化の多様性を認識し、互いの文化を尊重することの大切さを理解できる。 | 4 | 後1,後4,後5,後6 |
公民 | 哲学者の思想に触れ、人間とはどのような存在と考えられてきたかについて理解できる。 | 3 | 後2,後3,後10,後12,後13 |
諸思想や諸宗教において、自分が人としていかに生きるべきと考えられてきたかについて理解できる。 | 3 | 後7,後11,後14 |
諸思想や諸宗教において、好ましい社会と人間のかかわり方についてどのように考えられてきたかを理解できる。 | 3 | 後8,後9 |
地理歴史的分野 | 民族、宗教、生活文化の多様性を理解し、異なる文化・社会が共存することの重要性について考察できる。 | 3 | 後1,後2,後3,後4,後5,後6,後7,後8,後9,後12,後13,後14 |
帝国主義諸国の抗争を経て二つの世界大戦に至る日本を含む世界の動向の概要を説明し、平和の意義について考察できる。 | 3 | 後9,後10,後11 |
19世紀後期以降の日本とアジア近隣諸国との関係について、その概要を説明できる。 | 3 | 後14,後16 |
公民的分野 | 人間の生涯における青年期の意義と自己形成の課題を理解し、これまでの哲学者や先人の考え方を手掛かりにして、自己の生き方および他者と共に生きていくことの重要性について考察できる。 | 3 | 後1,後2,後8,後11,後13 |
工学基礎 | グローバリゼーション・異文化多文化理解 | グローバリゼーション・異文化多文化理解 | それぞれの国の文化や歴史に敬意を払い、その違いを受け入れる寛容さが必要であることを認識している。 | 3 | 後2,後3,後4,後5,後6,後7,後8,後9,後10,後11,後12,後13,後14 |
異文化の事象を自分たちの文化と関連付けて解釈できる。 | 3 | 後2,後3,後4,後5,後6,後7,後8,後9,後10,後11,後12,後13,後14 |