物理化学Ⅱ

科目基礎情報

学校 鈴鹿工業高等専門学校 開講年度 2017
授業科目 物理化学Ⅱ
科目番号 0051 科目区分 専門 / 必修
授業形態 授業 単位の種別と単位数 履修単位: 2
開設学科 生物応用化学科 対象学年 4
開設期 通年 週時間数 2
教科書/教材 教科書:「反応速度論」慶伊富長 著(東京化学同人)および配付資料参考書:「反応速度論」齋藤勝裕 著(三共出版) 「基礎から学ぶ量子化学」高木秀夫 著(三共出版)
担当教員 高倉 克人

到達目標

反応速度論・量子化学における基本的な考え方を理解し,物性値からの反応速度に関する各種パラメータの算出,複雑な反応機構の解析による速度式の導出,簡単な原子・分子軌道計算に応用できる.

ルーブリック

理想的な到達レベルの目安標準的な到達レベルの目安未到達レベルの目安
評価項目1反応速度論の基本的な術語を用いてこの学問に関する事象を説明することができる.反応速度論の基本的な術語の意味を記述できる.反応速度定数,反応次数の意味を述べられない.
評価項目2化学親和力の値から自発的に反応の進む向きを根拠を踏まえて説明できる.反応進行度や化学親和力の数値を計算により求めることができる.反応進行度,化学親和力の意味を述べられない.
評価項目3標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,与えられた実験値から速度定数と反応次数を求めることができる.変数分離法による微分方程式を解いて,反応物濃度を時間の関数として表すことができる.時間微分による反応速度の表現と反応次数・速度定数による反応速度の表現を結びつけることができない.
評価項目4標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,与えられた実験値から速度定数と反応次数を求めることができる.半減期と反応次数との関係式を導出できる.半減期の意味を述べられない.
評価項目5標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,与えられた実験値から速度定数と反応次数を求めることができる.反応初速度と反応次数との関係式を導出できる.分離法の意味を述べられない.
評価項目6標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,与えられた実験値から速度定数と反応次数を求めることができる.Microsoft Excelの関数機能を用いて与えられた数値を適切に処理できる.Microsoft Excelを用いて線形近似の近似曲線式を求めるための操作ができない.
評価項目7標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,与えられた実験値から活性化エネルギーと頻度因子を求めることができる.アレニウスの式をもとに,活性化エネルギーと頻度因子を実験的に求める方法を説明できる.アレニウスの式を記述できない.
評価項目8衝突理論に基づく頻度因子の計算式を導出し,アレニウスの式と結び付けられる.衝突理論に基づく頻度因子の計算式を用いて頻度因子の計算値や立体因子を求めることができる.衝突理論に基づく頻度因子の計算式を記述できない.
評価項目9標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,アイリングの式をもとに,活性化エネルギーと頻度因子を実験的に求める方法を説明できる.アイリングの式を導出することができる.アイリングの式を記述できない.
評価項目10標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,活性化パラメータの値より,遷移状態の構造を推定できる.アイリングプロットにより活性化パラメータを求めることができる.アイリングプロットの方法を述べられない.
評価項目11与えられた反応機構に対し定常状態近似と前駆平衡を適用し,複合反応の速度則を求められる.定常状態近似や前駆平衡を適用できる条件について説明できる.複合反応と素反応の違いを述べられない.
評価項目12与えられた反応機構に対し定常状態近似と前駆平衡を適用し,複合反応の速度則を求められる.定常状態近似や前駆平衡を適用できる条件について説明できる.逐次反応,併発反応,可逆反応を区別できない.
評価項目13速度定数や平衡定数と緩和時間との関係式を導出できる.与えられた実験値から速度定数を求めることができる.緩和時間の定義を述べられない.
評価項目14標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,連鎖長を求めることができる.定常状態近似をラジカル連鎖反応に適用し,速度則を求められる.連鎖反応に含まれる素反応の名称を述べられない.
評価項目15標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,与えられた実験値から無限希釈時の速度定数を求めることができる.反応機構と反応溶媒の性質をもとに,反応速度の溶媒依存性について説明できる.溶媒和の定義を述べられない.
評価項目16与えられた反応機構に対し定常状態近似と前駆平衡を適用し,複合反応の速度則を求められる.定常状態近似や前駆平衡を適用できる条件について説明できる.触媒の定義を述べられない.
評価項目17標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,与えられた実験値よりミカエリス定数と最大速度を求めることができる.さらに阻害剤の影響についても説明することができる.ミカエリス-メンテン機構に対し定常状態近似を適用し,ラインウィーバー-バークプロットの関係式を導出できる.ミカエリス-メンテン機構を記述できない.
評価項目18標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,固体表面で起こる反応の速度則と,その圧力依存性について説明することができる.Langmuirの吸着等温式を導出できる.吸着と脱着の定義を述べられない.
評価項目19標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,重合の連鎖長や重合度を大きくするための方法を説明できる.定常状態近似を適用して重合反応の速度則を表すことができる.重合反応の定義を述べられない.
評価項目20標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,ド・ブロイ波の性質よりボーアの量子条件を導くことができる.二重性の視点から粒子の運動量と波の運動量を結びつけることができる.粒子と波の二重性の意味を述べられない.
評価項目21標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,ハミルトニアンを運動エネルギー項とポテンシャルエネルギー項に分けて記述し,簡単な系に対してシュレーディンガー方程式を立てることができる.二重性をもつ粒子の運動量と運動エネルギーの関係式を導出できる.ハミルトニアンとエネルギー,波動関数を用いたシュレーディンガー方程式を記述できない.
評価項目22一次元の箱の中の粒子についてシュレーディンガー方程式を解いて,規格化された波動関数とエネルギー準位を求めることができる.境界条件などを利用して,一次元の箱の中の粒子のエネルギーが量子化されていることを示すことができる.一般的な一次元の箱の中の粒子を考える際の前提を述べることができない.
評価項目23標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,原子軌道の電子密度分布について根拠をあわせて説明できる.水素様原子の波動関数を三次元極座標による動径関数と球面調和関数の積で表し,これらと量子数との関係を説明できる.量子数の定義と区別について述べることができない.
評価項目24標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,等核二原子分子の基底状態における電子配置,結合次数,磁性について説明できる。第2周期元素の等核二原子分子の分子軌道の成り立ちについて説明できる.水素分子の分子軌道の成り立ちについて述べられない.
評価項目25標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,簡単なπ電子系に対して単純ヒュッケル近似により分子軌道とエネルギー準位を求めることができる.単純ヒュッケル近似の方法および各種パラメータの意味を説明できる.原子軌道の線形結合の意味を述べられない.
評価項目26標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,HOMOとLUMOのエネルギー準位,係数の大きさより有機化合物の反応性を予測することができる.HOMOとLUMOをローブを用いて図示することができる.HOMOとLUMOの意味を述べられない.
評価項目1a右記標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,与えられた実験値から速度定数や反応次数を求めることができる.微分系の反応速度式から出発して反応物濃度を時間の関数として表すことができる.さらに半減期と反応物初濃度との関係式,反応初速度と反応次数との関係式を導くことができる.反応次数,反応速度定数など反応速度論に関する基本的な術語の意味を述べられない.
評価項目2a右記標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,アレニウスプロットやアイリングプロットにより活性化エネルギー頻度因子,活性化エンタルピー,活性化エントロピーを求められる.衝突理論や繊維状態理論に基づきアレニウスの式,アイリングの式をそれぞれ導出することができるアレニウスの式とアイリングの式を記述することができない.
評価項目3a右記標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,定常状態近似や前駆平衡の考え方を複雑な複合反応の速度則を表すために利用し,さらに与えられた実験値から反応速度論に関する値を求めることができる.複合反応の機構より,定常状態近似と前駆平衡を適切に用いることができる.複合反応に含まれる素反応の組み合わせの様式(逐次反応,併発反応,可逆反応)を区別できない.
評価項目4a右記標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,一元の箱の中の粒子に対してはシュレーディンガー方程式の解として企画された波動関数を求め,エネルギー準位を計算することができる.単純な系についてシュレーディンガー方程式を立てることができ,そのハミルトニアンを運動エネルギー項とポテンシャルエネルギー項に分けて表すことができる.二重性,量子化,量子数などの量子化学に関する基本的な術語の意味を述べられない.
評価項目5a右記標準的な到達レベルの目安を達成できた上で,フロンティア軌道論などに基づき分子の性質を予測することができる.変分法,単純ヒュッケル近似などを用いて比較的単純な分子に対して分子軌道の近似解を求める方法を説明できる.変分法や線形結合など分子軌道法に関する基本的な術語の意味を述べられない.

学科の到達目標項目との関係

教育方法等

概要:
 物理化学は物理学的な手法を用いて化学物質の構造と性質を解明する学問である.本科目では,化学反応の基本的データの一つである反応速度について基礎から考え方と理論を理解して,反応速度則の予測や反応機構の解明法を習得するとともに,量子化学について単純で平易な例を用いて基礎から理論を理解し,化学結合や化合物の反応性を電子レベルの立場から理解,予測する方法を習得する.
授業の進め方・方法:
・すべての授業内容は,「生物応用化学科」学習・教育到達目標 (B)<専門>(JABEE基準1(2)(d)(2)(a))に相当する.
・授業は講義・演習形式で行う.講義中は,集中して聴講する.
・「授業計画」における各週の「到達目標」はこの授業で習得する「知識・能力」に相当するものとする.
注意点:
<到達目標の評価方法と基準>下記授業計画の達成目標1~26を網羅した問題を前期中間試験,前期期末試験,後期中間試験,学年末試験,小テスト,課題レポートで出題し,目標の達成度を評価する.合計点の60%の得点で,目標の達成を確認できるレベルの試験,課題を課す.
<学業成績の評価方法および評価基準>前学業成績=0.8×(中間・定期試験の平均点) + 0.2×(小テスト・レポートの平均点).
ただし,中間・前期末試験の成績が35点以上60点未満だった学生のうち,希望者に対しては各試験につき1回だけ再試験を行い,満点の6割以上を得点した場合は,対応する試験の得点を(再試験の満点x 0.6)に差し替えて成績を算出する.また再試験の得点が満点の6割に満たない場合も,本試験より高得点であれば再試験の得点に差し替えて成績を算出する.
<単位修得要件>学業成績で60点以上を取得すること.
<あらかじめ要求される基礎知識の範囲>本科目は,第2年次に履修する「微分積分I」,第2年次に履修する「化学」,ならびに第3年次に履修する「物理化学Ⅰ」の学習が基礎となる科目である.
<レポート等> 理解を深めるために小テスト,レポートを適宜課す.
<備考>授業に出てくる数式を暗記するのではなく,数式が導き出される過程や根拠を理解することが望ましい.記述式の試験問題を解答する際には明快な文章を用いて解答を作成できることが望ましい.本科目は5年次に履修する「界面化学」を理解する上での基礎となる内容を多く含むので,長期的な視野を持って授業に臨んでほしい.

授業計画

授業内容 週ごとの到達目標
前期
1stQ
1週 反応速度の定義と表し方 -反応速度定数,反応次数- 1.反応速度論の基礎的な考えに含まれる用語を説明できる.
2週 反応系の熱力学 2.反応系の熱力学を理解し, 熱力学的パラメータから化学反応の進む向きを導き出せる.
3週 速度式の決定 -n次反応速度式-
3.微分式と積分式を相互に変換して反応物濃度の時間変化を示す式を導出し,これに基づく反応次数,速度定数の決定方法を説明・利用できる.
4週 速度式の決定 -半減期法,C14年代測定- 4.反応次数と半減期の関係を理解し,半減期に基づく反応次数,速度定数の決定・利用およびC14年代測定に関する計算ができる.
5週 速度式の決定 -分離法(擬1次速度式法,初速度法)- 5.分離法の考え方を理解し,これを用いた反応次数・速度定数を決定する種々の方法を説明・利用できる.
6週 速度式の決定,演習 6.データ処理によって物性値から反応次数,速度定数等の反応速度論に関する種々のパラメータを算出できる.
7週 反応速度の温度依存性 7.アレニウス式の意味を理解し,アレニウスプロットにより活性化エネルギーと頻度因子を計算できる.
8週 中間試験 1~6週で学習した内容を説明しできる.
2ndQ
9週 衝突理論を用いた速度定数の計算 8.衝突理論よりアレニウスの式を誘導し,数値計算ができる.
10週 遷移状態理論 -アイリングの式の導出とアイリングプロット- 9.アイリング式を遷移状態理論から導くことができ,アイリングプロットの意味を理解できる.
11週 遷移状態理論 -活性化パラメータの意味 -,演習 10.アイリングプロットから活性化パラメータを求め,これらの値より遷移状態の大まかな構造を推定できる.
12週 反応系の理論 -律速段階,定常状態近似, 前駆平衡-
11.定常状態近似および前駆平衡(律速段階近似)の考え方を理解し,化学反応の解釈へ適用できる.
13週 反応系の理論 -逐次反応と併発反応- 12.逐次反応(連続反応),可逆反応,の反応経路を理解し,定常状態近似や前駆平衡近似により速度式を導出できる.
14週 反応系の理論 -可逆反応- 13.可逆反応の緩和速度式の導出を理解し,緩和時間の値より速度定数を求められる.
15週 反応系の理論,演習 12~14週で学習した内容に関する複合的な問いに対しても説明できる.
16週
後期
3rdQ
1週 気相反応 -連鎖反応と爆発反応- 14.定常状態法を複雑な反応(ラジカル連鎖反応など)へ適用し,速度式や連鎖長を導出できる.
2週 溶液反応 -溶媒効果,イオン強度と速度定数の関係- 15.溶液反応の反応速度に対する溶媒効果および,イオン反応におけるイオン強度と速度定数の関係を説明できる.
3週 触媒反応 -触媒反応の速度論- 16.触媒を含む反応経路に対して速度式を導出できる.
4週 触媒反応 -酵素反応- 17.酵素反応について,ラインウィーバー・バークプロットによるミカエリス定数や最大速度の算出,阻害機構の決定ができる.
5週 固相反応 -Langmuirの吸着等温式,種々の固相反応経路における速度式の導出- 18.固体表面への気体の吸着/脱着や固体表面で起こる化学反応についての関係式を導出し,反応速度の圧力依存性について説明できる.
6週 重合反応 -連鎖重合,逐次重合- 19.連鎖重合,逐次重合のそれぞれについて速度式,重合度を表す式を導出できる.
7週 前期量子論 -ボーアの量子条件,ド・ブロイの式- 20.ボーアの水素モデルやド・ブロイ波の式にもとづいて量子条件を説明できる.
8週 中間試験 1~6週で学習した内容を説明できる.
4thQ
9週 シュレーディンガー方程式 -方程式の立て方- 21.ハミルトニアンの意味を理解し,ごく単純な原子,分子についてシュレーディンガー方程式を記述できる.
10週 1次元の箱の中の粒子 22.1次元の箱の中の粒子についての1次元シュレーディンガー方程式を解き,波動関数の規格化,エネルギーの量子化,直交条件について説明できる.
11週 水素様原子 23.水素様原子について3次元極座標表示によるシュレーディンガー方程式を立てられ,種々の量子数,動径関数,球面調和関数の意味と電子密度の分布について説明できる.
12週 分子軌道 -原子軌道の相互作用,フント則,パウリの排他原理- 24.等核2原子分子の分子軌道における原子軌道間相互作用のしかたを理解して分子軌道を記述し,基底状態における電子配置を説明できる.
13週 分子軌道 -変分法,単純ヒュッケル近似- 25.変分法に基づく永年方程式の解法を理解し,特に単純な有機π電子共役系に対しては単純ヒュッケル近似を用いた波動関数やエネルギー準位を導くことができる.
14週 分子軌道 -フロンティア軌道論- 26.被占軌道と空軌道およびHOMOとLUMOの意味を説明できる.
15週 分子軌道法,演習 12~14週で学習した内容に関する複合的な問いに対しても説明できる.
16週

モデルコアカリキュラムの学習内容と到達目標

分類分野学習内容学習内容の到達目標到達レベル授業週

評価割合

試験小テスト・課題相互評価態度発表その他合計
総合評価割合80200000100
配点80200000100