社会と文化

科目基礎情報

学校 奈良工業高等専門学校 開講年度 平成31年度 (2019年度)
授業科目 社会と文化
科目番号 0003 科目区分 一般 / 選択
授業形態 講義 単位の種別と単位数 学修単位: 2
開設学科 物質創成工学専攻 対象学年 専1
開設期 前期 週時間数 2
教科書/教材 教科書は用いずプリント教材を用いる。
担当教員 桑原 英之

到達目標

①人間を人間たらしめている様々な条件について知識を獲得している。また関連する哲学、思想、技術、法について理解できている。
②人間の条件の考察を通して自分自身の思考の枠組みを再構築すると共に自身の研究活動や生き方を主体的に批判・検討・表現する思考力や言語化能力を身につけている。

ルーブリック

理想的な到達レベルの目安(優)標準的な到達レベルの目安(良)未到達レベルの目安(不可)
評価項目1人間にとって言語がどういう意味をもつのか説明することができる。人間にとって言語がどういう意味をもつのか部分的に、もしくは一部の哲学者や言語学者について概要を説明することができる。人間にとって言語がどういう意味を持つのか全く説明することが出来ない。
評価項目2現代における身体観がどのように変容してきたのか思想史及び医療を例に説明することが出来る。現代における身体観がどういう変容を遂げたのか部分的に概要を説明することができる。現代における身体観がどういう変容を遂げたのか全く説明することが出来ない。
評価項目3人間にとって死者の弔いや生きる意味が私達の文化や社会においてどういう役割をもっているのか説明することが出来る。人間にとって死者の弔いや生きる意味が私達の文化や社会においてどういう役割をもっているのかについて部分的に概要を説明することが出来る。人間にとって死者の弔いや生きる意味が私達の文化や社会においてどういう役割をもっているのかについて全く説明できない。
評価項目4人間が人間であるために不可欠な条件について自分の考えをもつとともに言語化して表現することが出来る。人間が人間であるために不可欠な条件について自分の考えを整理するとともにその一部を言語化して表現することが出来る。人間が人間であるために不可欠な条件について自分の考えがまとまらず言語化することが出来ない。

学科の到達目標項目との関係

教育方法等

概要:
文化とは自然の対義語である。なぜなら人間が自然界に属しながら一線を画して意味持つ世界を形成していくものが文化だからである。そして社会もまた自然の対義語である。なぜなら自然(ピュシス)の法則から離れて人為的(ノモス)なルールと技術に基づいて形成されるものが社会だからである。したがって社会と文化について考えるとは、他の種から分岐し進化した人間の本質について考えることだと言えよう。
そこで本講義では、文化と社会を背負って生きる人間が人間であるための条件とは何なのか、すなわち人間の条件について考えてみる。人間だけが言葉を話すが言葉にはどのような意義があるのか、医療技術の進歩は人間と人間の身体にどのような変容をもたらしつつあるのか、なぜ人間は死者を弔うのか、等々、人が人として生きていくために不可欠な要素を哲学を軸に、倫理・医療・宗教・科学等、様々な観点から吟味し、文化と社会を作り生きていく人間の本性について考察し、自分が当たり前と思っている文化・社会・価値観の枠組みを改めて考え直すことを目的とする。
授業の進め方・方法:
本講義では哲学・倫理・医療・科学技術等様々な観点から人間の条件について考察し検討していく。道具としての役割をこえたところの言語のもつ意義、医療技術の進歩の中で翻弄されていく身体と変容する死の概念、死者の葬送の持つ文化的社会的役割等について、歴史的背景を踏まえつつ現実の社会問題も具体例にあげながら理解を深めていく。また、問題をより身近に感じ理解してもらうために、実際に病気に苦しむ患者や家族をなくし悲嘆に暮れる遺族など、日常生活では避けて通りがちな現実を写した映像資料等も活用していく。
講義内で学生に適宜問いを投げかけると共に問い・課題について回答してもらい次の講義にフィードバックしていくことも適宜行う。
注意点:
関連科目
本講義は、人文科学・社会科学・自然科学いずれの知識も総合的に用いながら考えていく。
学習指針
自分が知っている価値観や考える枠組みを改めて問い直し、自分ならどう考えるのか意見を述べ、主体的に講義に参加してもらいたい。
また本講義では病気に苦しみ生きる意味を問い直す患者、家族をなくして悲嘆に暮れる遺族など、とりわけ医療現場の生死に関わる映像も多く用いる。感情的に共感しつらくなったり悲しくなったりすることもあるかもしれないが、今起こっている現実を直視するために不可欠の資料となるため、本講義の受講には映像の視聴も含まれることを留意すること。
映像資料
自己学習
身の回りで起こっていることや社会問題等に関心を払うと共に、関連する図書・資料等を図書館やネットで調べて基礎的な知識を定着させること。

授業計画

授業内容 週ごとの到達目標
前期
1stQ
1週 ガイダンス 人間を問うことの意義について考察する。 本講義の内容や目標が理解できる。
2週 人間の条件 言葉1:言語能力は道具と並び人間を他の種と分ける重要な要素と考えられてきたが、言語の特徴とは何か、記号操作能力がどのように重視されてきた歴史的経緯を考察する。 なぜ人間だけが言葉を使えるのか、他の表現手段とどのような違った特徴を持つのか、言語能力が人類史において重視されてきた理由について説明することができる。
3週 人間の条件 言葉2:道具としての言葉は意見・思い・意思を伝えるコミュニケーションの場において典型的に現れるが、コミュニケーションにおいて言葉が伝わるにはどのような要素が必要となるのか。ロマン・ヤコブソンの機能図式をもとに考える。 ロマン・ヤコブソンのコミュニケーション機能図式をもとに言葉が伝わるために必要な要素とは何か説明することが出来る。
4週 人間の条件 言葉3:言葉は人間にとって表現手段・伝達手段という道具であるが、実際には道具としての役割を超えて人間の在り方に深く関わっている。道具としての役割をこえた言語の意義についてカントとウィトゲンシュタインという哲学者、そしてソシュールをもとに考察する。 カント、ウィトゲンシュタイン、ソシュールの言葉に対する考え方について説明できる。
5週 人間の条件 身体1:人間は生命体である以上必ず身体を持っているが、身体は精巧な機械であり精神のない動物は機械仕掛けの物体と断じたデカルトの動物機械論を取り上げるとともに、原題行く産業における大量生産・大量消費システムにあって機械的に処理していくありさまについて考察する。 デカルトの動物機械論等身体論の歴史的展開を説明することが出来るとともに現在の畜産業の現状について説明することが出来る。
6週 人間の条件 医療技術と身体1:人間は身体なしには生きることができないが、技術の発達とともに人間にとって身体は交換可能な「所有物」となりつつある。臓器移植、脳死といった医療技術がもたらす身体変容について考察する。 脳死・臓器移植の医療技術がどのような問題をもたらし、臓器売買に現れる身体観の変容がどのようなものであるかについて説明することが出来る。
7週 人間の条件 医療技術と身体2:代理懐胎は身体の道具利用として批判されることばあるが、生殖補助医療技術の発達は配偶子の売買や選択という新たな問題を突きつけている。ARTが身体にもたらす影響について考察する。 生殖補助医療技術が人間の身体や社会規範にもたらす影響について説明することが出来る。
8週 人間の条件 医療技術と身体3:医療技術の発達とともに身体をぎりぎりまで延命させる技術が進歩した。結果、安楽死・尊厳死という現代的問題も生まれているが、それがどういう問題か考察する。 尊厳死、安楽死と医療技術がどのように結びつき問題化しているのか説明することが出来る。
2ndQ
9週 人間の条件 医療技術と身体4:身体を持ちながら人間とは認められない存在に「胎児」がいる。胎児とはどういう存在であるのか、中絶や出生前診断といった医療技術と法律に焦点を当て考察する。 中絶に関する法律を理解するとともに出生前診断という医療技術が胎児にもたらした影響について説明することが出来る。
10週 人間の条件 死者の弔い1:古今東西、死者を弔うことをしない民族・文化は存在しない。なぜ人間は死者を弔うのか、どのように弔ってきたのか、諸宗教における葬送儀礼を概観する。 諸宗教における葬送儀礼がどのようなものであるの説明することが出来る。
11週 人間の条件 死者の弔い2:いとうせいこう『想像ラジオ』やドキュメンタリーをもとに東日本大震災における死者と死者への被災者遺族の思いをもとに死者を弔うことがなぜ必要なのか考察する。 東日本大震災における被災者遺族の苦悩を理解するとともに死者を弔うことの必要性について説明することが出来る。
12週 人間の条件 生きる意味:人間は無意味に耐えられない存在であるが、とりわけ生きる意味への問は誰もが一度は避けられないものである。生きる意味とはなにか、緩和ケア医療の現場ならびにホロコーストサバイバーであるフランクルの思想を手がかりに考察する。 フランクルの思想について説明することが出来る。
13週 人間の条件 人間性を否定された人々:歴史をたどれば生きる意味を否定され生きるに値しない命と烙印を押された人々がいる。第二次世界大戦におけるホロコーストと日本の優生保護法下で起きた出来事について考察する。 過去の歴史において人間性を否定されたどのような出来事が起きたのか説明することが出来る。
14週 人間の条件:人は名前をもつことで一人の人間として認められるとともに、その人にしか無い顔を持つ。名前を持つとは「誰か」として生きることであるがこの「誰who」として生きるためには公共性が必要と考えたハンナ・アーレントの思想を考察する。 ハンナ・アーレントの考える人間の条件について概略を説明できる。
15週 まとめ 本講義の内容全体を振り返り改めて人間の条件について振り返り自分の意見を表現することが出来る。
16週

モデルコアカリキュラムの学習内容と到達目標

分類分野学習内容学習内容の到達目標到達レベル授業週

評価割合

試験(レポート)発表相互評価態度ポートフォリオその他合計
総合評価割合700010020100
基礎的能力2000100030
専門的能力2000001030
分野横断的能力3000001040