電子物性

科目基礎情報

学校 鹿児島工業高等専門学校 開講年度 令和03年度 (2021年度)
授業科目 電子物性
科目番号 0122 科目区分 専門 / 必修
授業形態 講義 単位の種別と単位数 学修単位: 1
開設学科 電気電子工学科 対象学年 5
開設期 前期 週時間数 前期:2
教科書/教材 浜口智尋・森伸也「電子物性―電子デバイスの基礎」(朝倉書店)
担当教員 奥 高洋

到達目標

 以下の到達目標が評価項目である。
1.電磁波の粒子性と電子の波動性(前期量子力学)から導かれる電子の性質を深く理解し、光電効果や加速電子の波長を計算できる。
2.ボーアモデルから水素原子の電子エネルギーの量子化を導くこと。それを発展させた原子内の電子配列と周期表との関係を理解し、価電子の意味から原子の性質を予測できる。
3.シュレディンガー波動方程式の簡単な例題の解法を通して、波動関数の意味、エネルギー状態について説明できる。
4.固体を形成する化学結合の種類と性質から固体の電気的性質を説明できること。固体において電子エネルギーバンドの形成を理解し、金属、絶縁体、半導体のエネルギーバンドの構造からそれぞれの基礎物性を説明できる。
5.固体の性質の基本である結晶構造について学習し、X線回折法と結晶構造の関係を説明できること。X線回折データから格子定数の決定ができ、原子密度を求めることができる。
6.粒子の存在確率を表す統計関数について学習し、金属の伝導帯におけるフェルミレベルの意味、フェルミエネルギーとフェルミ速度の関係を説明できる。さらにの自由電子の運動量とエネルギーの関係を理解し、運動量空間の考え方を説明できる。

ルーブリック

理想的な到達レベルの目安標準的な到達レベルの目安未到達レベルの目安
評価項目1標準的な到達レベルに加えて、以下のことができる。 □ 黒体放射の理論からプランクが量子仮説を導いたことを説明できる □ 電磁波の粒子性、即ち運動量を持つことを、コンプトン効果により説明できる。□ 電磁波が進行波であること、電波、光、放射線と波長との関係を説明できる。 □ プランクの量子仮説、アインシュタインの光量子説を理解し、E=hνより限界波長を計算できる。 □ ド・ブローイの物質波の概念を理解し、電界により加速された電子の波長、波数を計算できる。波長と位相速度を与えられた時に進行波の式を導くことができない。また、ド・ブローイの物質波の式から電子波の波長を計算できない。
評価項目2標準的な到達レベルに加えて、以下のことができる。 □ 各量子数と、s p d f軌道の関係において、エネルギーとの関連を概略的に説明できる。□ 水素原子モデルにボーアの量子条件を適用して電子の離散的なエネルギー状態を導出できる。 □ 主量子数、方位量子数、磁気量子数、スピン量子数の意味、各量子数の関係を説明できる。 □ パウリの排他律を理解し、原子内の電子配列(s p d f軌道)と周期表の関係を説明できる。価電子について説明できる。ボーアの量子条件が電子の波動性がもとになっていることが理解できない。また、これより水素原子モデルでの電子の離散的なエネルギー状態を導出することができない。 主量子数と副量子数の関係を関係を説明できない。
評価項目3準的な到達レベルに加えて、以下のことができる。 □ 波動関数が表すものを理解し、1次元波動方程式の井戸型ポテンシャルにおける解を導くことができる。さらに3次元クーロンポテンシャルにおける波動方程式が厳密な原子モデルとなることを説明できる。□ ド・ブローイの物質波の式と波動方程式より、シュレディンガー方程式が導かれることを理解し、1次元波動方程式の井戸型ポテンシャルにおける解と電子のエネルギーの意味を説明できる。 □定在波の条件から井戸型ポテンシャルの問題が説明できる。電子の波動性がシュレディンガー波動方程式の元となっていることを理解できない。また1次元波動方程式の井戸型ポテンシャルにおける波動関数が定在波を意味することを説明できない。
評価項目4標準的な到達レベルに加えて、以下のことができる。 □ 半導体における不純物の役割をボンドとバンドの両方の概念で説明できる。□ 共有結合、イオン結合、金属結合、分子性結合、水素結合の性質を理解し、その結合からなる結晶や物質の電気的な性質を説明できる。 □ 化学結合(ボンド)における価電子のエネルギー状態から固体のエネルギーバンドの概念を理解し、絶縁体・半導体と金属の電気伝導性について、ボンドとバンドそれぞれの観点から説明できる。各種化学結合の性質から物質の電気的性質を説明できない。あるいは絶縁体と金属の違いをバンド図の概要を描いて説明することができない。
評価項目5標準的な到達レベルに加えて、以下のことができる。 □ ミラー指数、X線回折法のラウエ法と粉末法の違いを説明できる。 □ 一般的な結晶構造において面指数と面間隔の関係を説明できる。□ 結晶構造=空間格子+単位構造であることを理解し、代表的な結晶構造について説明できる。 □ 単位格子中の原子数がわかる。最密充填構造の代表的な結晶構造の原子充填率を計算できる。 □ ミラー指数、X線回折法、ブラッグの条件を理解し、立方晶において面指数から面間隔を計算できる。さらにブラッグの条件から反射角を計算できる。代表的な結晶である、NaCl構造、CsCl構造、ダイヤモンド構造、せん亜鉛構造の空間格子と単位構造を説明できない。
評価項目6標準的な到達レベルに加えて、以下のことができる。 □ 結晶中の電子が定在波となることからフェルミエネルギーと状態数の関係を導き、エネルギー当たりの状態密度を計算できる。 □ Maxwell-Bolzmann統計、Fermi- Dirac統計、Bose-Einstain統計とそれぞれに従う粒子の性質について説明できる。 □ エネルギーバンドとフェルミレベル、フェルミエネルギー、仕事関数の関係を説明できる。 □ 金属内の自由電子の運動量空間におけるフェルミ面とフェルミ速度の関係を説明できる。 Maxwell-Bolzmann統計、Fermi-Dirac統計、Bose-Einstain統計の式とグラフを描くことができない。また、金属の伝導体のフェルミエネルギーを説明できない。

学科の到達目標項目との関係

教育プログラムの学習・教育到達目標 3-1 説明 閉じる
本科(準学士課程)の学習・教育到達目標 3-a 説明 閉じる
本科(準学士課程)の学習・教育到達目標 3-c 説明 閉じる

教育方法等

概要:
 初等的量子力学から固体物理の基礎にあたる部分までを学習する。これにより4年次の半導体工学で学習したエネルギー帯構造に関する理解を深めるとともに、物質の性質を結晶構造や化学結合から説明できる事を学ぶ。3年次の電子工学の延長上にあり、5年次後期の電気電子材料を学ぶ上での土台となる科目である。
授業の進め方・方法:
 電磁波の粒子性と電子の波動性から導かれる前期量子力学の知識より、原子内の電子エネルギーの量子化を導き、それを発展させた原子内の電子配列と周期表との関係から、原子の性質が予測できることを学習する。次に 原子内の電子エネルギーの量子化を発展させて得られる固体の電子エネルギー帯の知識や金属の自由電子理論により、金属や半導体の基礎物性が説明できることを学ぶ。 金属や半導体等の固体の性質の基本である結晶構造とX線回折による測定法について学習する。また、電子の波動性から結晶内における電子の波数やエネルギーが計算できること、それがシュレディンガー方程式の井戸型ポテンシャルにおける波動関数と同じ意味を持つことも発展的に学習する。
注意点:
 学修単位(講義Ⅰ)の科目である。従って1回の授業につき60分の自学自習を必ず必要とする。
演習問題や講義中の質問により各種計算が必要なことが多いので電卓を必ず持ってくること。なお,本科目では中間試験および期末試験を実施する.

授業の属性・履修上の区分

アクティブラーニング
ICT 利用
遠隔授業対応
実務経験のある教員による授業

授業計画

授業内容 週ごとの到達目標
前期
1stQ
1週 電磁波の粒子性と電子の波動性 □ 電子物性で学ぶこと、電子工学や半導体工学で学んだこととの関連性について説明できる。
□ 電磁波の波動(進行波)としての表現と、電波、光、放射線と波長との関係について説明できる。
2週 電磁波の粒子性と電子の波動性 □ 黒体放射とプランクの量子仮説、アインシュタインの光量子説を理解し、光電効果においてE=hνより限界波長を計算できる。
3週 電磁波の粒子性と電子の波動性 □ 電磁波の粒子性、即ち運動量を持つことを理解し、コンプトン効果がそれを証明することを説明できる。
□ ド・ブローイの物質波の概念を理解し、電界により加速された電子の波長、波数が計算できる。
4週 原子内の電子 □ 水素原子モデルに、ボーアの量子仮説と量子条件を適用して、電子の離散的なエネルギー状態を導出できる。
□ 主量子数、方位量子数、磁気量子数、スピン量子数の意味を理解し、それぞれの量子数の関係を説明できる。
5週 原子内の電子 □ パウリの排他律を理解し、原子内の電子配列と周期表の関係を説明できる。
□ 各量子数と、s p d f軌道の関係、価電子について説明できる。
6週 波動方程式と波動関数による電子状態の表現 □ ド・ブローイの物質波の式と波動方程式より、シュレディンガー方程式が導かれることを理解し、1次元波動方程式の井戸型ポテンシャルにおける解と電子のエネルギーを導くことができる。
□ 波動関数が表すものを理解し、3次元クーロンポテンシャルにおける波動関数から導かれる電子分布の形と主量子数、方位量子数、磁気量子数の関係を説明できる。
7週 固体における化学結合 □ 共有結合、イオン結合、金属結合、分子性結合、水素結合の性質を理解し、その結合からなる結晶や物質の電気的な性質を説明できる。
8週 固体における価電子のエネルギー帯の形成 □ 化学結合(ボンド)における価電子のエネルギー状態から固体におけるエネルギーバンドの概念を理解し、絶縁体ならびに半導体と金属の電気伝導性について、ボンドとバンドそれぞれの観点から説明できる。
2ndQ
9週 結晶構造と物質の性質 □ 結晶構造=空間格子+単位構造であること、ブラベー格子、代表的な結晶構造について説明できる。
□ 単位格子中の原子数、最密充填構造について理解し、代表的な結晶構造の原子充填率を計算できる。
10週 結晶構造と物質の性質 □ X線回折法、ブラッグの条件について理解し、反射角から面間隔を求めることができる。
□ ミラー指数について理解し、面指数から面間隔を計算できる。
11週 結晶構造と物質の性質 □ 具体的な結晶について、X線回折の結果から、格子定数を求め、さらに原子密度を求めることができる。
12週 粒子の性質と統計関数 □ Maxwell-Bolzmann統計、Fermi-Dirac統計、Bose-Einstain統計の性質とそれぞれに従う粒子について説明できる。
□ エネルギーバンドとフェルミレベル、フェルミエネルギー、仕事関数の関係を説明できる。
13週 金属内の自由電子 □ 金属内の自由電子の運動量空間におけるフェルミ面とフェルミ速度、熱速度の関係を説明できる。
□ 金属において電気伝導が生じている状態を運動量空間で説明できる。
14週 運動量空間とフェルミ球 □ 電子の波動性より結晶中(3次元井戸型ポテンシャル中)の波数条件から状態数を計算できる。
□ フェルミエネルギーと状態数の関係を導き、エネルギー当たりの状態密度を計算できる。
15週 試験答案の返却・解説 試験において間違った部分を自分の課題として把握する(非評価項目)
16週

評価割合

試験小テストレポート授業への参加状況(態度)ポートフォリオその他合計
総合評価割合60400000100
基礎的能力0000000
専門的能力60400000100
分野横断的能力0000000